
前回のコラムでは、シミには雀卵斑(そばかす)、老人性色素斑、肝斑、ADM、炎症後色素沈着という5つのタイプがあることをご紹介しました。ご自身のシミがどのタイプか把握できたら、次に気になるのは「じゃあ、どの治療を選べばいいの?」ということですよね。今回は、シミ治療で使われる主なレーザーや光治療について、それぞれの特徴と選び方を詳しくご説明します。
シミ治療の選択肢は大きく3つ
シミ治療の方法は、大きく分けて レーザー・IPL(光治療)・ニードルRF(ポテンツァなど)の3つに分類されます。
それぞれに得意とするシミのタイプがあり、シミの原因や深さ、肌質に応じて最適な治療法を選ぶことが大切です。また、より高い効果を目指すために、これらを組み合わせて行うケースもあります。
それぞれの特徴を詳しく解説していきます。
ピコレーザー – 現在の主流治療

ピコレーザーとは
ピコレーザーは、現在の美容医療において シミ治療の主流 となっているレーザー機器です。
「ピコ(pico)」とは 1兆分の1秒(10⁻¹²秒) を表す時間単位であり、ピコレーザーはその超短時間で光を照射できる点が最大の特徴です。
この極めて短い照射時間により、周囲の皮膚組織への熱ダメージを最小限に抑えつつ、シミの原因であるメラニン色素のみを効率的に破壊することができます。
そのため、従来のナノ秒レーザーと比較して痛みやダウンタイムが少なく、炎症後色素沈着(PIH)のリスクも低い とされています。
また、照射モードを調整することで、濃いシミの除去から肌全体のトーンアップ、毛穴・くすみの改善 まで、幅広い目的に対応できるのも特徴です。
ピコスポット
ピコスポットは、シミの部分にのみピンポイントで高出力レーザーを照射する治療法 です。
ごく短い時間で高エネルギーを集中させることで、メラニン色素を効率的に破壊し、境界のはっきりしたシミに高い効果を発揮します。
主な適応は、そばかす・老人性色素斑・ADM(後天性真皮メラノサイトーシス) などです。
照射後には、薄いかさぶたが形成され、約1週間前後で自然に剥がれ落ちます。かさぶたが取れた後は、シミが薄くなった変化を実感できるケースが多く見られます。
なお、ADMのように真皮という深い層にメラニンが存在するタイプでは、やや高めの出力で複数回の照射を行う必要があります。1回で取り切ることは難しく、3〜5回程度の治療を半年ほど間隔をあけて行うことで、徐々に色味を薄くしていきます。
ピコトーニング
ピコトーニングは、低出力のレーザーを顔全体に均一に照射する治療法です。
メラニンを少しずつ穏やかに分解していくため、刺激に敏感な肝斑の治療にも適しています。
肝斑は強い刺激によってかえって濃くなってしまう性質があるため、ピコトーニングのように出力を抑えて優しくアプローチする方法が有効とされています。
また、炎症後色素沈着が広範囲にある場合や、顔全体のくすみを改善したい場合にも効果が期待できます。
施術を繰り返すことで、肌のメラニン量が徐々に減少し、トーンが明るくなり、透明感のある肌質へ導くことができます。一般的には、5〜10回程度の施術を重ねることで変化を実感される方が多い治療です。
注意点:肝斑がある場合のレーザー治療
肝斑のある方に対しては、ピコスポット照射のみでの治療は推奨されません。高出力レーザーが肝斑を刺激すると、かえって濃くなってしまう可能性があるためです。
一方で、肝斑の上にそばかすや老人性色素斑が重なっているケースも少なくありません。
そのような場合は、表面のはっきりとしたシミにはピコスポットを、肝斑にはピコトーニングを併用して落ち着かせるという方法で対応できます。
重要なのは、医師による診断のもとで、肌の状態やシミの種類に合わせた最適な治療計画を立てることです。
参考:Qスイッチレーザーとピコレーザーの違い
少し前までは、シミ治療の主流はQスイッチレーザーでした。現在も多くのクリニックで使われていますが、より進化したピコレーザーを導入するクリニックも増えています。
両者の最大の違いは照射時間です。Qスイッチレーザーがナノ秒(10億分の1秒)で照射するのに対し、ピコレーザーはピコ秒(1兆分の1秒)で照射します。照射時間が短いことで、周囲の肌への熱ダメージを抑えつつ、メラニンにピンポイントで作用させられます。
さらに、ピコレーザーは、より細かいメラニン粒子まで破壊できるため、薄いシミや小さなシミにも効果的です。Qスイッチレーザーでは取り切れなかったメラニンも粉砕できるのが特徴です。
このように、痛みやダウンタイムが少なく、炎症後色素沈着のリスクも低いことから、現在ではピコレーザーがシミ治療の主流となっています。
IPL(光治療)- 優しく全体的にアプローチ

IPLとは
IPL(Intense Pulsed Light)は、レーザーとは異なる幅広い波長の光を用いた治療法です。「フォトフェイシャル」という名称で耳にしたことがある方も多いかもしれません。
複数の波長を含む光を顔全体に照射できるため、シミだけでなく赤み、毛穴の開き、くすみなど、複数の肌悩みに同時にアプローチできるのが特徴です。ピコレーザーに比べて刺激が穏やかで、ダウンタイムもほとんどないため、初めてシミ治療を試す方や、軽度の色ムラ改善を希望する方にも人気があります。
IPLが適しているシミ
IPLは、薄いそばかすや老人性色素斑に特に効果的な治療法です。
レーザーほど高出力ではないため、濃いシミや深い層のシミへの効果は限定的ですが、複数の小さなシミが広範囲に散らばっている場合には、顔全体を一度にケアできるというメリットがあります。
さらに、シミと同時に赤みやくすみの改善、肌全体のトーンアップも期待できるため、肌質改善を目指す方にも適しています。
一般的には、5〜10回程度の施術を定期的に行うことで、肌の透明感や質感の向上を実感できるケースが多いです。
肝斑のある方に対しては、IPL(光治療)は禁忌です。
IPLの光が肝斑を刺激すると、かえって濃くなってしまうリスクがあるため、肝斑がある場合は避ける必要があります。
注意点:肝斑にIPL治療はNG
肝斑部位にIPLを照射することで、悪化や火傷のリスクがあります。IPLを検討する際は、必ず医師による診察を受け、肝斑の有無を確認した上で治療を選ぶことが重要です。
ニードルRF- メラノサイトの活性を抑える新しいアプローチ

ニードルRF(ポテンツァ)とは
ポテンツァは、極細の針(マイクロニードル)で肌に微小な穴を開け、針の先端から高周波(RF)を流す治療法です。
一般的には毛穴治療のイメージが強いですが、シミや肝斑などに対応した専用モードもあり、幅広い肌悩みにアプローチできるのが特徴です。
ポテンツァのシミモード
ポテンツァのシミ治療専用モードでは、高周波のエネルギーがメラノサイトに作用し、メラニンの生成を抑制します。従来のレーザーとは異なり、メラニン色素そのものを破壊するのではなく、メラノサイトの活性を抑える点が大きな特徴です。そのため、すでにできてしまったシミを薄くするだけでなく、シミの再発を防ぎやすい肌に導くことが可能です。
特に、レーザーでシミを薄くしたものの、さらに改善したい方には効果的で、レーザー治療との組み合わせにより、より深いレベルでのシミ改善が期待できます。
また、ポテンツァは肝斑治療にも適しており、メラノサイトを破壊せず活性のみを抑えるため、白斑や色素沈着などの副作用リスクが低い点も大きなメリットです。
ポテンツァが適しているケース
レーザー治療を何度か受けたけれど、完全には消えきらなかったシミがある方。肝斑があるけれど、より根本的な治療を受けたい方。シミの再発を防ぎたい方。白斑リスクが気になる方。
通常3〜5回程度の施術で効果を実感していただけます。肌のターンオーバーを促進する作用もあるため、シミの改善と同時に、肌全体の質感向上も期待できます。
あなたのシミに最適な治療法を選ぶために
ここまで、ピコレーザー・IPL・ニードルRF(ポテンツァ)の3つの治療法をご紹介しました。
シミのタイプや肌質、お悩みや希望する仕上がりによって、最適な治療法は異なります。複数のシミが混在しているケースも少なくありません。そのため、医師による丁寧な診察とカウンセリングが欠かせません。
「この治療が良いと聞いたから」という理由だけで選ぶのではなく、専門医の診断を受けて、自分に合った治療法を選ぶことが重要です。

治療だけでは終わらない、トータルケアの重要性
実は、レーザーや光治療だけではシミケアは完結しません。施術後の鎮静ケアやクーリングを行うことで、炎症後色素沈着のリスクを抑え、治療効果を高めることができます。
また、内服薬や外用薬によるホームケアや紫外線対策も、シミ改善や再発予防には欠かせません。これらを組み合わせることで、より高い効果が期待できます。
シミ治療では、施術だけでなく、日々のケアや生活習慣も含めたトータルなアプローチが大切です。正しい知識と適切なケアを組み合わせることで、シミ改善への道がより確かなものになります。

医師 渡辺 佳奈
東京慈恵会医科大学救急科を経て、都内美容皮膚科で経験を積む。
患者様が自分の素顔を好きになるお手伝いをライフワークとし、丁寧な診療を心がけている。レーザー、ドクターズコスメの知識を豊富に持ち、注入治療、外科手術も得意とする。
ポジティブエイジングとナチュラルな健康美をテーマに抗加齢学、美容皮膚科学の研鑽に励む。